【実例】客単価と購入率を伸ばす“店のしつらえ”の技術。プチ改装で専門性や親しみやすさを伝える!

お客視点のちょっとした改善で客単価と購入率を伸ばし、在庫は減らせる
店は、お客に喜びを提供する場所。しかし、毎日そこにいるとお客のためよりも自分の都合を優先し、お客よりも商品を主役とした“しつらえ”になりがちです。儲けをもたらすのは商品ではなく、お客なのだということを忘れてはいけません。お客の心理を捉える「店のしつらえ」を実践し、客単価と購入率、さらには荒利を伸ばしましょう。
Contents
- 1 店頭のしつらえ 入店客はこれで増える
- 2 【1】お客にとって危険な外観は無機質・ぞんざい・張り紙
- 3 【2】外観をプチ改装するだけで入店客が増え、客層が上質に
- 4 店内のしつらえ 客単価はこれで上がる
- 5 【1】椅子がたくさんあるとお客と心が通い合う理由
- 6 【2】隠される安心感をつくりお客は長いしやすくなる
- 7 【3】背後を意識すると専門性がぐっと上がる
- 8 【4】什器の数を減らすと適正在庫数になる
- 9 【5】非日常を演出すると財布を開きたくなる
- 10 【実例】ほっとはーとやまだ 時計・眼鏡・宝飾店 岐阜・中津川市 独自の世界観を表現し、店が欲しいお客を喜ばす
- 11 心理的ハードルを設け 入店の決意を促す
- 12 地域での独自性を打ち出し心を豊かにする商品を扱う
- 13 非日常感の演出で店の世界観を示す
- 14 商品の売り方で欲しいお客を育てる
店頭のしつらえ 入店客はこれで増える
新規客は、入店するかどうかを、店舗外観と外からうかがえる情報だけで判断して決めます。ここを越えて入店しても、買上率と平均単価は店内空間のつくり方に大きく影響を受けます。集客から購入につながるかは、実店舗の“しつらえ”が鍵になります。
買物方法は成熟して、さまざまな買物方法へと細分化しています(図表①)。実店舗でもネット申し込みから配達までがセットになっていたり、インターネット店舗でも情報の多いサイトで商品決定をしてから最安値検索をして別サイトから購入したり、実店舗に専門家を同行して買物したりと、買物方法が多彩になっています。
そんな中で、実店舗へ来店する人たちには「自分を大切にしてくれる店で買いたい」という共通特徴が強くなりました。お客は日々変化しています。それなのに実店舗はいつ変化させましたか。全面改装ではなく、小さな変化でも人の特性に合っていたら大きく売上に貢献します。
新規客が入店しやすくなる「外観しつらえ」を持たなければ、お金を掛けて集客しても無駄になります。せっかくお客が店頭までやって来ても入店せず、帰ってしまう“店前Uターン客”現象を起こしていませんか。
店のしつらえは気分やセンスではなく、買物多様性時代にわざわざ実店舗に足を運ぶ「非効率を楽しいと感じるお客」に優しいつくり込みをします。
【1】お客にとって危険な外観は無機質・ぞんざい・張り紙
人間にとって自分がどう扱われるかは、生き延びるために重要な案件です。人の気配がしない店頭は無機質で「この店、営業しているのかしら」と不安を覚えます。使わなくなった備品が放置されて掃除もされていないと、見る人に「自分もほったらかしにされるのでは」と恐れを感じさせます。入り口ドアやショーウインドーのガラスに貼り過ぎたポスター類は、お客にとっては「入ってこないで」という遮断として伝わってしまいます。
ある薬局では、店主・従業員の専門性が高く、業界でも評判の商品を取り扱っていましたが、新規客入店が少なく、あってもテレビCM商品の価格の問い合わせばかりでした。この店舗の外観問題点は3つありました。
危険信号①
店頭で一番目立つのはスチール棚で人の気配がない→よく言えばスッキリしているかもしれないが、お客は冷たい感触とドライな扱われ方を想像して身構えてしまう。
危険信号②
古びたスチール三段棚が中心に置かれトイレットペーパーなど無造作に山積み→古びても手入れしてもらえないぞんざいな扱いから、お客は「この店と付き合うと私もぞんざいに扱われそう」と感じて入店しない。
危険信号③
入り口のガラスドアにはメーカー商品ポスターなどがべたべた張られ、店内が見えない。ショーウインドーのガラスは症状などを書いた張り紙がびっしり→お客にとって外から店内がうかがえないのは、お化け屋敷のようなものです。中がよく見えない知らない場所に足を踏み込むには多大な勇気が必要で、気軽に入ってはいけない店だと伝わってしまいます。
この店頭から出ているサインは「この店は冷たく、手入れをしたくない、お客とは接したくない、疲れている店だ」となります。店主は親切で知識も豊富で良い商材を扱っていることなど、まったく伝わらず損をしていました。
【2】外観をプチ改装するだけで入店客が増え、客層が上質に
大掛かりな改装をしなくても、手軽にすぐできる方法があります。高級にするのが目的ではありません。人の気配を出し、お客に手間暇かけたい従業員がいて、あなたを大切に迎える準備ができていると感じてもらうのが目的です。
しつらえを改善するには、まず“引き算”、次に“足し算”、最後に“表情”の順番で進めます。
先の薬局では、まずは古びたスチール棚と張り紙を撤去しました。空いた空間に手書き黒板で「人の気配」を出し、花を寄せ植えした鉢を置くことで「手間暇をかけるのが好きです」と伝え、ベンチを設置して「商品ではなく、このベンチに座る人を待っている」と“しつらえ”を改善しました。
すると店内をのぞき込む人が増え、店の前のお客と目が合う回数が増えました。このときに「にっこり笑顔を返す」と、自然な流れで入店してもらえる回数が増えました。以前のしつらえでは入店しなかった「相談客」が主流顧客となりました。入店しやすい“店のしつらえ”には、店主・従業員という“人”もセットなのです。
人は一人ではなく集団を作り、その中で生活する生き物です。だから「この店は私をどう扱ってくれるのか」が分かる店頭のしつらえが必要なのです。私より商品が大切な店ではなく、私を大切にしてくれる店と付き合いたいのです。
花を枯らさず咲かせるには手が掛かり、掃除も面倒になります。黒板など書き換えるのも手間です。座るためではなく迎えるためにベンチを置くのは非効率です。しかし、お客は自分を効率で扱ってほしくないからこそ効果があります。店の効率化は、お客を大切に扱う余裕を生み出すためにあります。その余裕を生み出す鍵は、店内のしつらえにあります。
店内のしつらえ 客単価はこれで上がる
実店舗の最大リスクは、設営の経費だけでなく維持費も掛かるのに、お客を追い掛けて移動することができないことです。
商売において実店舗は、商品本体以外にも価値を付加できる強みがあります。商品を知った瞬間から、手にして、動機づけされ、購入し、消費され、アフターフォローまでつながる“出合いから使い続ける過程で起こる出来事の質”も価値です。買物する空間と、そこで起こる体験の質が価格に反映できる付加価値となり、それは非効率なことがほとんどです。専門店の実店舗を買物方法に選ぶ人は、非効率を楽しめる特徴を持っています(図表②)。
セルフサービスで買物に販売員が介在しなくても済んでしまう店舗は、効率優先が基本でしょう。物を探しに来る買物方法ですから、当然物が主役です。店側の都合の良いように店はしつらえられます。掃除がしやすい、在庫補充が早い、説明が必要ない、空間にどれだけ多く詰め込めるか、展示と在庫管理が一緒の倉庫兼売場づくりです。接客が基本となる店舗であれば、こうした店都合の売場づくりは逆効果になります。店主・従業員といった人も“しつらえ”に含まれるのですから。信頼性を高める・専門性を感じさせる・集中を邪魔しない店内のしつらえにすると、購入率と客単価が上がります。さらに、無駄な在庫も減らせます。
人は、見る・聞く・触る・嗅ぐ・味わうという五感を使って、一瞬で「なんか好き」とか「なんか嫌い」などと判断します。
外観のしつらえに気を配ると、店とお客の付き合いが「好き」から始められます。好ましさから始まる付き合いは“アバタもエクボ”になり、古いしつらえは歴史を感じさせ、口数の少なさは落ち着きを、絞られた商品数は品質の良さを、限られた空間は近しい距離となります。反対に「嫌い」から始まると、全てがマイナスに感じられてしまいます。人は自分が持った感覚を正当化しようと都合よく物事を捉えます。それが“好き”のもたらす効果です。それを象徴する代表的なものが5つあります。
【1】椅子がたくさんあるとお客と心が通い合う理由
椅子には力があります。座る人を主役にする力です。店内にはできるだけ多く椅子を配置しましょう。商談は価格にかかわらず大切なものです。大切なことは座って対話するのが基本です。自宅に大切な人が訪ねてきたとき、立たせておきますか。座るか座らないかはお客の自由ですが、椅子を勧められるとお客として迎えられたと感じてもらえます。
ある酒販店で、商品の精算や包装をするときに「どうぞ掛けてお待ちください」と椅子を勧めるように変えました。すると、座って待つ人はほぼいませんが、気楽に店内を回遊するようになり追加買いの比率が格段に上がりました。強要ではなく自ら回遊して見つけた商品は、良い物だと正当化されるから買上率が上がるのです。
椅子にはもう一つ力があります。自らが座らなくても荷物置きになることです。人は姿勢によって心の状態が変わります。体の前面にかばんを持つ姿勢だと“販売員とお客の間に荷物がある=販売員とお客の間に障壁がある”となり、心を開いてもらえず寄り添えず、提案が的外れになります。座ると置く、一人に椅子は2脚必要だと覚えてください。
【2】隠される安心感をつくりお客は長いしやすくなる
人は隠れたい本能を持っています。自分のことをさらけ出すと、敵に襲われるという太古の記憶が刺激され、店から早く出たくなってしまうのです。DNAに刻まれている本能に逆らわず、安心させてあげる必要があります。
自分が動くたびに音が出るのは敵に見つかりやすいということですから、足音が響かない工夫が有効です。人が動いて出るきぬ擦れ、足音、物に手を触れる時の音などが消される程度の音量でBGMを流しましょう。音楽でも環境音でもかまいませんが、日本語やラジオなど言葉が主流の音は避けます。人は他人が気になるので、日本人に日本語のBGMは“敵かもしれない他人に気を付けろ”というサインになって緊張を高めてしまいます。
色もしつらえでは重要です。周りの景色から浮いてしまうと、やはり敵に見つかりやすくなります。だから、壁の色が大切になります。日本人の肌色を一番隠してくれるのは木肌の色なので、壁に木を増やせるといいですね。色の濃さも自然の成り立ちを意識します。人は土の上に立ち上部を太陽の光で照らされるのが自然ですから、床を濃い土の色に近くして、次に壁は床より薄い色、最後に天井を一番明るくすると安心感が高まります。
反対に下を照らすと、不思議な感覚になり非日常感が高まり高額品を勧めるなどには有効ですから、これぞ!という商品は下から照らすのも効果的です。店の隅々まで照らすのは隠れる所をなくすようなものですから、店内に長居してほしいなら、ダウンライトや間接照明を取り入れましょう。影がないほど照らすのはタブーです。
【3】背後を意識すると専門性がぐっと上がる
お客の視界に見えるものに気を配りましょう。目は脳が伸びて作られていますから、目に見えることは本人の意識に関係なく脳が常に情報処理をします。お客の目には、従業員はその背後に見えるものと同じだと認識されます。
ある薬局で相談を受けているときに、店主の背後には120円の歯ブラシなど安価な雑貨がありました。売りたい商品は平均1万円で、店主は時間をかけて説明しますが、お客には120円の価値にしか感じられていないのです。そこで、背後の棚には、本当に売りたい商材を置きました。商品を詰め込んでいた上からPOPをかぶせるように設置していたものを、POPを配置してから商品を置いて空間に余裕を持たせました。すると、同じ説明でも真剣に聞いてもらえ、成約率が上がりました。お客の相談内容も具体的になり、提案力がいかんなく発揮されるようになりました。背後にあるものを変えたことで店主の専門性が高まったのです。
ギュウギュウに商品を詰め込んだ棚を背後にする商品説明は、お客に雑踏のようなうるささを感じさせてしまいます。商品パッケージは、ライバル商品と並べられて目立つことを想定してデザインされますから、空間の中に余裕を持っておけばちょうどよい伝わり具合になります。商品がギュウギュウの棚は、雑踏の中で大声を出して何かを伝えようとするようなものですが、余裕のある空間に配置された商品は、図書館の静けさの中で話をするように確実に大切さが伝わります。
実際に自分が立っている姿を後ろの背景ごと写真に撮って確認しましょう。人の脳は、必要ないものは見ない性質があり気付きにくいのですが、写真に撮るとそのフィルターが外れて不必要なものを見つけられるようになります。
ある布団店ではレジに立っているときに背後になる壁に“店の歴史を感じさせる古い写真”を数点額装して飾りました。お客は、店の歴史を背負っている店主に対して「この店で買う布団は長持ちするよね」と言うことが増え、次はあれが買いたいとリピート率が上がっています。
あなたは背後に何を背負っていますか。いつも接客する場所に立っている姿を写真に撮って、確認してみてください。
【4】什器の数を減らすと適正在庫数になる
物さえ並べたら売れていた時代の什器をそのまま使っていませんか。よく見掛けるのは、天板も扉もガラスの高めのカウンタータイプ。現在は使い勝手が悪いので、中には何も展示せず布が掛けてあったり、テーブル代わりにして、天板にディスプレーしてあることが多いですね。
こうした役割を終えた什器は捨てましょう。物を詰める棚があり過ぎる店舗は、人より物が大切だとお客に伝わってしまいます。物が主役だった時代の什器は、立って接客することを想定して作られていますから高さがあります。椅子とのなじみが悪く、その高さがお客と店の心の障壁の高さになります。椅子を設置するのに最適な高さのテーブルやカウンターなど、什器を新しくしつらえてください。
【5】非日常を演出すると財布を開きたくなる
机の上には何も置いてはいけません。説明に使うツールは、その都度出し入れします。店側が面倒だと感じるくらいがちょうどよいあんばいです。店側の使い勝手の良さは、日常感につながります。日常をイメージさせる場所の代表は、自分の部屋です。自分の部屋で財布を開いて買物する人はいないから、日常感漂う空間では財布を開かないのです。店は販売員の使い勝手ではなく、お客一人一人に合わせてツールを出し入れする手間を掛けましょう。
また、人の脳は言葉に左右されますから、他店の店名が入ったもらいもののボールペンやカレンダー、名言の書かれた道徳日めくりカレンダー、不必要な本、事務的なファイルの背表紙など文字があると、店側の話を聞くふりをしながらそれらの文字を追い、理解力が落ちます。お客が日常を思い出すと、その瞬間に集中力が切れて買物気分は終了します。
そして、お客はきれいな家に住んでいますから、掃除をするのはもちろん不必要なものを徹底して排除しましょう。自宅より汚れた雑な場所でお金を払いたくないのが人情です。接客する場所に私物を置くことも日常につながりますから、持ち込まないようにしましょう。
店舗の不必要なものを処分すると、販売員の目に入る余分な情報もなくなりますから、アイデアが湧いてきやすい環境になり、仕事が早くなります。店内を写真に撮って見直すと不必要なものが見つけやすくなりますから、まずはそこから始めてみましょう。
【実例】ほっとはーとやまだ 時計・眼鏡・宝飾店 岐阜・中津川市
独自の世界観を表現し、店が欲しいお客を喜ばす
人口減少、高齢化が進む過疎地にあってもお客をつくり、店主の思う店づくりが実現できることを証明する店がある。店が求めるお客を迎えるよう、しつらえを整える。店主の専門性によって、来店するお客の期待を満たし売上につなげる「ほっとはーとやまだ」の手法に学ぶ。
岐阜県東部、中津川市の北部に位置する付知町。豊かな森林を有する山地の間に丘陵地帯が開け、旧街道が続く付知銀座商店街の一角に「ほっとはーとやまだ」は店を構える。
外観は大きなショーウインドーの前に、木製のベンチと季節を感じさせる鉢植えが2つ。シンプルながらも、毅然とした店の姿勢を感じさせ、一見しただけでは何を扱う店なのかは分からない。

心理的ハードルを設け 入店の決意を促す
「何屋なのかを、わざと分からないようにしています。入店の心理的ハードルを高くしているのは、お客さまには心して入店してもらいたいからです」
こう話すのは、店主の山田文美さん。店づくりは外観から始まるものだと説明を続ける。
ベンチは、お客を迎えようとする店の包容力を表す。2つの鉢植えは門であり、店の内外をつなぐ結界としての役割を担っているというのである。あえて看板を出さず、何屋であるかを明確にしないのは、旧来の店の在り方であり、日本人にとってなじみのある方法だとも考えている。
ベンチの横には黒板の看板を設置し、店を代表する眼鏡や宝飾、時計などの商品をチョークで案内する。こうすることで、外から中へ向かう結界を越えて、入店のハードルが高い店には、ほぼ用事があるお客が入ってくるようになる。それは店がどういうふうにお客を扱うかというイメージを発信し、しっかりとお客を受け止めている証拠である。その役割を果たすのが、店のしつらえである。
店の営業時間は10時から17時までで、一日の来店客数は平均して10人程度。
「一人ずつの話を聞いて、商品についての提案に時間をかけると、この人数しか対応できないんです」と山田さん。スタッフの熊谷多仁子さんと二人でお客に接する。

地域での独自性を打ち出し心を豊かにする商品を扱う
店の経営とともに、地域商店コンサルタントとして活動する山田さんは、短い営業時間と、少ない来店数でありながら、年間1200万円を売り上げる実績を築き上げるために、大きな改革を行ってきた。
山田さんが同地に稼ぎ、夫の稼業であった時計店を継いだ27年前。店ではどんなお客も受け入れようとしていたが、お客は主に利便性を求めていた。
「安いこと、欲しいものが何でもあることなど、お客さまはわがままな要望を店に求めていました。ですがそれにただ応えるのでは、店は成り立たない。そこで、店が来てほしいお客を選ぶことが必要だと決心したのです」
山田さんは自分の店の価値についてあらためて考え、地域の中で店の独自性を打ち出すため、生活に必需ではないが心が豊かになる商品を扱うことにした。そこで、時計をはじめ、宝飾、化粧品、眼鏡、雑貨という5つのアイテムを選んだ。
客層の核となるのは50~70代。おしゃれに敏感で個性的なタイプにターゲットを絞った。主力商品は眼鏡と宝飾に設定して、自分に自信を持ち、価値を高めていくお客へと育てていこうと考えた。
また、該当する人々に買物へ行くならどこに行きたいかを聞いてみた。すると市街地にある店舗に行きたいけれど、車で片道30分はかかる。その道のりが面倒になってくる年代であることを感じた。
「子育てや仕事が一段落して、自分に投資ができる年代の中で、向かうお店がないと考えている人も多い。そこで、ここへ来ると安心できて長居ができるような工夫を凝らしました」
目指したのは、お客が店に足を踏み入れると、日常を忘れられるような世界観の創造だった。店内のしつらえの様子を見ると、内装は木を基調にし、床を暗めの色にした上に、ダウンライトや間接照明などを用い、全体を通じて落ち着いた空間に仕上げられている。

非日常感の演出で店の世界観を示す
入り口からすぐ右手の壁面にはカラフルなバッグ類を豊富に用意。正面には主力商品の眼鏡を整然と棚に並べて、しっかりと訴求する。棚の下部には、きもの用の桐のたんすを活用し、収容を兼ねながら眼鏡の展示を行った。

左側壁面には、デザインの異なる壁掛け用の時計が多数飾られている。さまざまなデザインの壁時計が、それぞれの音を放っている様子や、実際の時刻を示すものを一つに絞ることで、非日常感を演出する効果を図る。

店の中央には、木枠にガラス張りのショーケースが置かれ、スポットライトに照らし出された指輪やネックレスが陳列されている。床には重厚な色彩のペルシャじゅうたんを敷いて、高級感を醸し出す。宝飾品の中でも高額となる商品は、お客の目の付きやすい場所に置いた。レジ近くにあるショーケースには指輪やピアスを、化粧品を配する壁面前のショーケースにはパールのネックレスを陳列する。
「高額商品を、商品を選ぶときや購入する際に目に入る場所に置くことで、そうした商品の存在を知ってもらうことが目的です」と山田さん。次回の購買につながるきっかけも生み出しているのである。


店の奥へと進むと、鮮やかなピンクの花が配された壁紙が、ひときわ目を引き付ける。その壁面いっぱいに並べられているのは、化粧水や乳液などの基礎化粧品。お客に薦めたい商品を一つのブランドに絞って紹介する。
壁紙は山田さんが選んでドイツから輸入したものだ。店内外にある装飾の全ては、お客を迎えるために山田さんが納得して選んだものばかりである。店の世界観を表現するためには、店に何がふさわしいかを選ぶ店主の感覚も大切である。




店内には、お客が回遊する工夫も随所に仕掛けられている。壁面の上部にある飾りつけ棚には、大ぶりの雑貨を置いて目線を引き付けながら、中央に陳列する商品やその下部にある小物へと誘導する。前進を映す大きな鏡も各所に置いて、お客が商品を身に着けた際、全身とのバランスを確認することができるようにした。さらに鏡は店内を広く見せる効果をもたらす。店内の商品の前には、木製の丸椅子を複数用意しておき、どの場所でもお客がくつろいで商品を見て、休憩することができる。
非日常感のある空間で、時間をかけて丁寧に対応する店の姿勢と、自分の価値を高めてくれる商品を提案する店として、常連客の心をつかんでいる。


商品の売り方で欲しいお客を育てる
店にある商品の中で、販売を目的としないものがある。それが雑貨だ。しかも道路に面した大きなショーウインドーいっぱいに並べられているのも斬新な点である。
「当店では雑貨を買うために来店されるお客さまはほぼいません。なぜなら、雑貨は商品を購入してくださったお客さまに差し上げているものですから」と山田さん。
雑貨は購入金額に応じて、お客に好きな品を選んでもらう一つの販促戦術なのだという。メーカーが配布する販促物は、店の世界観に合わないことから、お客が喜ぶ雑貨を用意した。
その選択の基準は、やはり非日常感のあるもの。派手な招き猫の置物や、さまざまな表情をしたカエルのオブジェなど、自分では買わないが、もらうとうれしいプレゼントといった要素を持つものを置いている。また時折だが、雑貨を求めるお客もいることから、価格の表示も行っている。

商品の在庫は原則として置かない。時計はカタログを提示して注文し、眼鏡や宝飾についてはリフォームやオーダー品、店の仕入れた商品を、個々のお客に合わせて提案する。価格は店が自由に設定する。仕入れた商品が在庫となってしまわないよう、年に一度の割引セールを実施している。
「便利なことや緊急性を要望するお客さまは店には来ません。もし、価格面での相談があれば、近郊の店を紹介することもあります。一時的な売り逃しはあっても、当店の商品を求めるお客さまは戻ってくることを学びました」と山田さん。

価格の安さや利便性を求めるお客が来ないということは、そのような販売方法をしない店であることを、お客にしっかりと伝え切れていることである。店の欲しいお客を教育することで、店が望む客層を獲得する。店の姿勢や商品の価値を示す最も明確な方法が、店のしつらえなのである。
しつらえは、一定の期間で変化をさせるべきだと考える山田さん。
「お客さまがきれいな家に住んでいるのだから、店もきれいでなければきてくださるわけはありません。また、お客さまは常に変化していることも自覚しなければならない。店の商品やしつらえも、5年をめどに見直し、いつでも新しい提案をしていきたい」
(取材・文/町田雅子)



この記事は
株式会社ごえん 代表取締役社長
地域商店コンサルタント
山田文美(やまだあやみ)
が書きました。
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